博士受験対策
大学院入試は大学入試と比べて簡単だと言われています。それは同意します。特に社会人博士については優遇措置がある場合が多く、私も「入学自体は簡単だろう」と思っていました。結果的に無事合格しましたが、受験を通して、決して油断できるものではないのだと切に感じました。
この記事では、私がそう思うに至った実体験、私の受験対策とその反省について記述します。
落ちる人は落ちる
まず大学院受験を舐めてはいけないと感じたのは、研究室訪問で社会人博士受け入れ経験について聞いた際です。私は受験した学科については3つの研究室に伺ったのですが、うち2つの研究室で「社会人だからと言って記述試験にはなんの優遇措置もない」「過去受け入れようとしたこともあるが、記述試験で落ちてしまってどうしようもなかった」と言われました。もちろん受験科目は調べていたので、通常受験と同様の試験を受けることは認識していましたが、大学院入試なんてほとんどの方が受かるものだと思っていたので、正直面食らいました。
決定的だったのは、受験年の合格者数です。私と同年に同じ学科の博士課程を受験したのは、私を含めて6人でした。結果的に、3人が筆記試験で落ち、口述試験でもう1人落ちたようです。受かったのは6人中2人だけです。筆記試験で落ちた方のうち2人とは試験当日に話したのですが、1人は旧帝大、1人は関関同立のM2でした。どちらも名の知れた大学ですから、おふたりとも人と比べて特段筆記試験が特別弱かったわけではないと推察します。それでも落ちるわけですから、油断していたら誰でも落ちる可能性があるのではないでしょうか。
受験難易度はもちろん大学や学科によるので、上記の内容はあくまでもそういう場合もあるのだというだけです。実際のところはぜひ各受験先の先生に状況を聞いてみてください。単に受験者数、合格者数を知りたいならホームページに開示されている場合もあります。しかし、私の受験先は研究科ごとの記録しか開示されておらず、学科の記録は開示されていませんでした。少なくとも私の受験先では、研究科の合格実績と学科の合格実績にそれなりに乖離があるようで、やはり自分の受験先の情報を細やかに知るためには、先生に探りを入れるのがよさそうです。
筆記試験
受験科目は物理と英語でした。配点が公開されており、物理重視でしたので、主に物理の対策に重点を置きました。英語についてはTOEFLの団体受験でした。TOEFL対策については他にあまたのサイトが紹介しておりますので、そちらに任せて、ここでは物理対策とその反省についてお話します。
物理の受験勉強法
大まかには0. 過去問とその解答の収集⇒1. 教科書で全容を復習⇒2. 過去問をぼんやり解きつつ教科書で関連項目を確認⇒3. 時間を測って過去問を解く という流れで学習を進めました。後で改めて述べますが、大きな反省点は大学院受験用の問題集を購入しなかったことです。
過去問と解答を集める
できるだけ多くの過去問を集めましょう。大学受験でもそうですが、院試にも傾向があります。傾向があるからには、過去問を題材に勉強するのが効率はいいです。そして、この傾向に慣れるためには、解くしかありません。慣れという意味では解くことそのものに価値がありますので、解答が見つからなくても必ず取り組みます。(ヤマを張るという意味では過去問は絶対に今年出題されないからやる意味がない、という意見を耳にしたことがありますが、そもそもヤマが当たらないと受からないような戦略は止めましょう。院試は定期考査と違って、多少ヤマを張って全く同じものが出るなんてことはありません。)
過去問は多くの大学で数年分公開されています。解答は大学から公開されていない場合が多いので、探すのに苦労するかもしれません。私の場合はしつこくググったら、学生達が勉強がてら作った回答例集が見つかったので、ありがたく活用させていただきました。
また、博士入試は修士入試と似たような問題構成、傾向であることもあります。公開過去問で傾向をざっと確認し、同傾向であれば修士入試も探してみましょう。特に解答・回答例は、博士入試より修士入試の方が圧倒的に集めやすいと思います。
教科書を流し読みする
まずは大学の時に使っていた参考書を流し読みして復習します。真面目にやっていると4年近くかかってしまうので、流し読み程度にとどめておく方が良いと思います。日頃専門書を読むときは、細かい式変形よりも、意味を重視して読みますが、今回は受験勉強。受験に使うであろう公式は覚えるつもりで読みます。人によっては全く思い出せないかもしれませんが、受験勉強に限っては、習うより慣れろな面もあります。一通り読んだ気分になったら、とりあえず過去問を解き始めてみましょう。
もし入試の分野が公開されているなら、勉強を始めて間もないころは、まず1分野読んで、その分野の過去問に取り組んでと、1分野ごとに(できればもっと小さな区切りで)進めることをお勧めします。全体を復習して、全部の問題に取り組んで、とやっていると、2分野目を復習している間に1分野目を忘れてしまいます。忘れる前に慣らすため、できるだけ細かい単位で勉強を進めましょう。
過去問を題材に勉強する
ざっと復習したら過去問に取り組みます。ここで注意ですが、ここ2~3年の博士入試の問題は、最後に取っておきます。これらは後で時間を測りながら本番さながらの環境でトライしましょう。それ以外の古い問題を使って慣らしていきます。
教科書に載っている問題や、自分が受けた定期考査も手元にあるかもしれませんが、経験的に、これらと院試問題は雰囲気が異なります。ですから、慣れるという意味では、いきなり院試を見る方が手っ取り早いと思います。
ここで意識することは、問題を見たときに解法が浮かぶかどうかです。「あの式にこの境界条件を入れた式があれば解けるな~」とか「カノニカルアンサンブルの方法だな~」とかそういう風にパッと思えるかどうかです。3分考えて思い浮かばなければ解答や教科書を見てしまいましょう。解答を見るときは細かく追わず、エッセンスだけ把握します。エッセンスを把握したら(あるいは解法が浮かんだら)実際に解いてみましょう。必ず実際に手を動かして解きましょう。理由はふたつ。1つは、計算力のリハビリ。2つ目は、式などの暗記の確認です。実際に問題を解く過程を通して、必要な暗記の精度を確認・向上していきます。「解き方は理解した」などと言って、実際の計算をおろそかにしていると、受験では勝てません。特に社会人博士ともなると、計算力は驚くほど衰えています。いやあ計算がそりゃもう合わない合わない(経験談)。できるだけ早くからリハビリしましょう。
ワンセンテンス解いたら、必ず教科書に戻って周辺知識を再確認しましょう。過去問ベースの学習法は、効率はいいですが学習内容に偏りが出ます。しかし、解いた問題そのものしか解けないのでは仕方がありません。そこで、都度教科書に戻って、物理的意味に理解を深めたり、似ている問題を眺めたりすることで、学習内容の偏りをフォローしていきます。数年分取り組んだら、一度さかのぼって同じ問題を、今度は自力でチャレンジしてみましょう。
ある程度解けるようになってきたら、他の分野の勉強を始めます。この間ちょいちょい1分野目のさらなる過去問を解き、勘のにぶりを避けます。繰り返しになりますが、1分野目をある程度解けるようになってから2分野目に進むのがポイントです。慣れるまでは問題を解くのに時間がかかるので、いきなり複数分野を同時進行しようとするとめげます。
他の勉強も同様に進め、少しずつ太刀打ちできる分野を増やしていきます。
時間を測って過去問を解く
ここまで来たら、時間を測りながら過去問を解いてみましょう。解きまくりましょう。最初のうちは1年分の試験をさらに小分けにしてもいいです。小分けにしてもいいですが、時間は測りましょう。繰り返しになりますが、計算力の衰えに驚きます。そもそも計算に時間がかかりますし、計算ミスによる解きなおしも生じます。受験校の試験に対して、自分のスピードが十分か、必ず把握しておきます。
また、過去2~3年分は、最後の最後に、本番さながらの緊張感で解くようにしましょう。問題を小分けにしても、傾向をつかんだり、理解を深めたり、スピード感をつかんだりはできますが、試験時間中に集中力が続くかどうかは小分けの訓練では確認できません。実力が十分ついてきたら、試験時間の長さにも慣らしていきましょう。
余力があれば
効率の良さという意味で過去問を押していますが、余力があれば(あってほしい)、他の大学の問題や院試用の問題集を眺めましょう。過去問を解くことの意味は、傾向に慣らす事でしたので、他の大学の問題からはその効果は得られません。ですから、探さずともきれいな解答のついてくる、院試用の問題集の方が良いでしょう(私はこういったものの存在を受験会場で知りました。。。これを知っていればもっと効率よくやれたのにと反省しています)。
過去問からの勉強は、効率が良い一方、数に限りがあります。しかし受験勉強の穴を埋めるには、数しかありません。ですから、問題集等を活用して、大量の問題に触れるようにしましょう。だからと言って問題集すべてを解いてはいけません。時間は有限ですから。まずは過去問を取り組み始めた時と同様、問題を眺めて解法が浮かぶかどうかを確認しましょう。解法が浮かばなかった問題だけ真摯に取り組めば十分です。効率よく知識の穴を埋めていきましょう。私の場合、この作業にも過去問を使い、修士博士併せて15年分くらいの過去問を使いました。と言っても受験勉強全体で半年くらいかけてゆっくりとやっているので、ものすごく根詰めてやったという感覚はありません。
口述試験
口述試験はほとんど落ちない、と指導教官からも言われましたが油断してはいけません。実際3人中1人落ちたわけですから。ここでも意識したこと、反省点等、書き残しておきます。
出願書類
口述試験は出願前から始まっています。そう、出願時に提出する研究計画書、研究成果報告書などの提出物です。コツは1つしかありません。わかりやすいものにすることです。そのためにやるべきなのは、できるだけ多くの人にチェックしてもらうことです。特に受験先の先生には見ていただきましょう。
多くの人に見てもらうと、それぞれ言うことが真逆だったりはします。そういう点はサラッと無視して自分の好みにしたらよいとは思います。ただし、専門用語がわからないと言われたときは、間違いなく直しましょう。近い分野の人にしか読んでもらわないと、誰も気づかないということがあるので、必ず複数分野の人にお願いして読んでもらいます。
また、後で揉めないように、記載していい内容を今の大学や勤務先に確認しましょう。出願書類が勤務先などに公開されることはないので未確認で提出してもバレないとは思いますが、受験することを知っていれば、受験にそういった書類が必要になることは想像できるはずですし、後で揉める可能性を残すくらいなら事前に確認したものを提出したほうが心穏やかです。
口述試験とは関係ありませんが、私の場合業績一覧に出願済特許の公開番号や特許番号を記載することは構わないが、出願番号(未公開特許の番号)を記載することはダメだと言われました。意外なものが記載不可だったりするので、気を付けてください。
発表資料
私は、筆記試験合格発表後、口述試験用のこれまでの研究内容に関する発表資料を作るように求められました。これも、わかりやすさがすべてです。いろんな人からアドバイスをもらいましょう。質疑応答のための余分なスライドを用意しておくことも常套手段です。
また、時間がオーバーしないように気を付けてください。質疑応答こそがアピールタイムですから、その時間を発表で圧迫してしまうのはもったいないです。時間に余裕のある資料作りをお勧めします。また、台詞は(もちろん覚えていきますが)忘れることを前提に、カンペを準備・持ち込みしましょう。会場の状況もわかりませんので、パワポの発表機能に頼らず、紙やタブレットに書き起こした台詞を持ち込みます。
質疑応答内容
実際に私が聞かれた内容を記します。私の場合、社会人博士ですから、事務的な質問もいくつかありました。
■こういった目的を掲げているが定量的にはどの程度効果があるか?
これは見積もっていなかったわけではないのですが、場合による量であり、なかなか答えにくい数値でした。素直に代表的な場合をいくつか挙げ、それぞれの場合の効果を数値で答えました。期待される効果の程度は、できればスライドに記載しておきたいですが、煩雑になる場合もあるので、私の場合はこれでよかったかとも思います。
■チームでの研究だと思うがどの部分が自分の仕事か?
これは私が企業での研究内容について発表したからかもしれません。研究テーマの目的としては大きなものを記載していましたが、発表内容は私の仕事について切り取ったものでしたので、その旨伝えました。また、同じチームの他の方がどういった仕事をされていたのかについても簡単にお話ししました。
■課題に対してAというアプローチをしているがBというアプローチではダメか?
私のスライドの論理的短絡をついた、素晴らしい質問でした。よくこの短時間での跳躍に気づいたなと当時感動しました。指摘されたBアプローチは共同研究先で進めていた旨を伝えました。
■この測定の時、値Cはいくつで測定したのか?
単純に私の記載漏れです。こういう質問は時間がもったいないので、されないように意識したスライドを作りましょう。実験条件を回答しました。
■企業でも博士号は求められるのか?
強く求められることはないが、取得の意思を伝えた方は例外なく応援してくださいました。といったことを言った気がします。事実です。
■入学後は在職のまま通学するのか?
正直にそうだと答えました。
■長期履修制度の使用について検討するように
在職のまま通学する場合、就学年限を6年にする(学費も6年かけて払う)制度があるそうで、これは入学直後に申請しないと少し損をするそうです。入学前に検討しておくように言われました。博士号取得が長期化する可能性を考えれば有難い制度です。6年かけるつもりはないのですが、博士が取れそうなときは再短縮することもできるそうですので、ひとまず使用しています。
●聞かれなかったこと
意外なことに、志望動機や入ってからの研究については全く触れられませんでした。事務的な内容以外は、発表内容についての質疑のみでした。(だからと言ってみんなが聞かれないわけじゃないですよ!!)
7分の発表に対して13分の質疑があったので、もう少し聞かれてそうな気もするのですが……覚えているものだけということでご容赦ください。
最後に
なんだかんだ言って、一番大事なのは「油断しないこと」な気がします。ここまでを読んで「このくらいやればいいんだな」と思わず「このくらいはやらないと落ちるかもしれない」と思うことをお勧めします。
この記事が誰かの油断を取り除くことを祈っています。
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